「あっちぃ〜。」
レオンは自分にかけていたマントをバサッとはずして片手で持った。
白いTシャツも汗で少し濡れていた。レオンは上でキラキラと輝く太陽をうっとおしそうに見つめる。
「なんでここはこんなに暑い町なんだ??」
「温暖な気候だからでしょ??」
「むしろ、熱帯タトゥよ・・・この暑さ。」
リウもテラもさすがに参っている状態だった。
ここは港町ハツガリータ。
町アルハナから遠く海を渡ったところにあるでっかい港町だ。
ミノサロウドたちと戦ったあの日から二日経過していた。
エリスたちは新たな目的のために今歩いているのだ。
ここに来た理由はこの町の近くにある”ウォウルスの森”に行くため。
そう、チェインの言葉を聞いて急いでやってきたのだ。
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「いい?一度しか言わないわ。よく聞いて。」
チェインは戦いが終わったと、みんなに話し始めた。
「エリスが私に気づく事で私もエリスのことを知る事ができたわ。どうやら、エリスは私で私はエリスなわけなのよね。」
「よくわからんが、そうらしいな。」
レオンは「うわぁ、やっぱり。」っといったような顔しながらチェインに言った。
「まぁ、ちょっと変わった二重人格と思って。私の過去の記憶そのものはエリスと一緒らしいから。・・・・・弟を殺したのもね。」
「・・・・・・・・」
― ”ちょっと”かそれ??
いや、つっこむな自分。
レオンとリウとテラは頭を抱えながら自分を必死に抑えていた。
「ただ私たちは完全に統合したわけじゃないの。」
「ど、どーいうことタトゥ??」
テラが聞くと、チェインはすぐに答えを出した。
「私はだいぶ前から自分の中にいるエリスの存在に気づいていたわ。でも、彼女は私に気づいていなかった。
それによって、問題があった。」
「問題?」
「一方が表に出ているとき、もう一方の意識は途切れてしまうようになっていたの。」
「なるほどな。」
レオンは腕を組んでチェインの話を聞いてうなずいた。
以前、エリスの記憶が飛んだ理由はどうやらそこにあったらしい。
「今は私たちもお互いの存在に気づいたのだけれど、それでもエリスの意識は今現在途切れているわ。
このまま完全に統合できなければ・・・・・おそらく、どちらかの一方が消える気がする。」
「ななななんでタトゥか?!」
テラはわたわたとあせりだす。
チェインはうつむくと首を左右に振った。
「わからない。でも予感がするわ。それに・・・・私の体力は日に日に落ちていっている。」
「普段、動いていないだけなんじゃない??」
「・・・・・・・・・・・・そうだったらいいんだけどね。」
リウの言葉に少し考えてチェインは答えた。
うんとあたりは暗いムードになる。
「とにかく、今は自分のことが知りたいわ。だからこそあなたたちにお願いがあるのよ。」
「お願い??」
「えぇ。ウォウルスの森の奥にある『鏡の泉』という古い噴水に連れて行ってほしいの。」
「うぉうるすのもり??」
テラの顔には「?」が浮かんでいた。
チェインはうなずくと少し考え、口を開けた。
「・・・・・・・エリスに聞いたらわかるわ。とにかく、できるだけ急いでほしい。」
「・・・・わかった。」
レオンはそう答えると、チェインはふぅっと息を吐いた。
「・・・・・じゃあ、もうそろそろエリスにもどるわ。また変な鈴で無理やりもどされるのは勘弁したいところだからね。」
「・・・・・・・鈴・・・か。」
― 以前は鈴の音が聞こえたときに、エリスとチェンジしたらしいからな。
レオンはうんうんと一人納得をする。
チェインは目をつぶり念じると、体に光を宿した。
やがて、光は強くなっていった。
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っというわけで、今に至るわけ。
「とりあえず、休憩しましょうか。」
「買い物もしたいし、ちょうどいいわね。」
「おーぅ。」
レオンはもうバテバテっといった感じだ。そうとう暑さに嫌気がさしているらしい。
「あはは・・・じゃあ、私買い物いってきますね。レオンさんもう休みたがってるし。」
「あ、私も」
「ちょい待て。」
エリスのところへリウが行こうとしたときに、レオンが言葉で彼女を止めた。
ずかずかとそばまで来ると、水色の自称ドラゴンと言うやつをむんずっと掴んでエリスに渡す。
「こいつ連れてけ。俺とリウは向こうの喫茶店にいるし。」
「な、なにいってんのよ!!私はエリスの護衛しなきゃいけないのよ?!」
「護衛役ならテラで十分だ。それに、あいつにはチェインがついてる。いいだろ?エリス。」
不機嫌そうに言うレオンに「いいえ」なんて言えない。
それに、彼のいい分は一応間違っているわけでもないし。
「わ、わかりました。じゃあ、リウさんには悪いですがそうさせてもらいます。」
「・・・・・・・。」
「あとでみんなで行きましょ?ねっ??」
「・・・・・・・・・わかった。」
リウはむっと複雑な顔をしてそっぽ向いてしまった。
そうとう行きたかったらしい。
エリスはははっと苦笑すると、未だ状況を飲み込めてないテラを連れて人ゴミへと入って行った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「っで?なによ。なんか私に聞きたい事があるんでしょ??」
「まぁな。お前には3つ質問したい事がある。」
レオンはリウの方に顔を向けると人差し指を一本たてる。
「一つ目は・・・・なんでエリスの顔を知ってたんだ?」
「・・・・は?」
「だって、お前・・・初めて俺たちと会ったときにチェインを見て言っただろ?
エリス・グラティスじゃない。あきらかに顔が違うって。」
「・・・・・・・・・・あぁ。あれね。」
リウは下に落ちている石をひょいと二個拾うとお手玉をし始めだした。
「コルジナBG機関では詳しい個人情報が入ってくるの。生年月日、血液型、住所やその人の顔・・・・などね。」
「ふーん。それで・・・か。」
レオンも落ちている石を2つ拾う。
それを器用に片手でお手玉をし始めた。
「・・・・・・二つ目。なんであの伝説級の石がどんな形や色をしているってわかったんだ?
エリスが普通に首から提げているのにもかかわらず、注目されないくらい知られていないのに。」
「えぇ。たしかにどの書物にもその石の写真は載せられていないわ。なんて言ったって伝説級だしね。
でも、それは表の世界だけ。裏の世界は違う。石がどんなものかもう知られているのよ。こういう仕事でもその情報が入っているんだから。」
リウは淡々と言いながら、お手玉を続けていた。
レオンはお手玉していた手を止めそのうちの一つを下へ放り投げた。
「でもよ。とっととあの石を回収して厳重に保管したほうが手っ取り早いんじゃねぇの??」
「たしかに、私の仕事は石を守ることよ。でも、私たちの本来の仕事は石を守ることなんかじゃない。人を守ることが私たちの仕事なの。」
「・・・・・・・・・・・・じゃあ、聞かせてもらおうか。3つ目の質問。」
レオンはその言葉を待っていたのか。ニヤッと笑みをこぼす。
「誰がその護衛を頼んだんだ?」
「!?」
カチッと石が当たる音を鳴らして動かしていた手を止める。
リウは真剣な顔でレオンを見ていた。
「当然・・・・いるんだろ?依頼者が。だってエリスは何も護衛してくれなんて頼んでねぇんだし。」
レオンはリウに近づき顔を覗きこんだ。
リウはレオンから目を話し、口を閉ざしていた。
レオンはさらに追い討ちをかけるように、リウに言った。
「でも知ってるか?エリスは俺たちに会うまでずっと人気のない静かなところに一人で暮らしていたらしいぜ??」
レオンは残り二つを下に落とした。石はカツカツっと音をたてて地面に戻る。
「・・・・・・・・・エリスに知り合いがいるなんて悪いけど考えられねぇな。」
「・・・・・・・・・・・」
彼女は右手で左の肘を持ち、顔をしかめた。
「・・・・・・・・それはプライバシーの関係上、答えられないわ。」
「・・・・・・・あっそ。」
レオンは内心舌打ちをしたい気分だったが、歩きだしてリウを追い抜いた。
「ま、俺には関係ない話っぽいし。どーでもいいけどな。」
「じゃあ、聞かないでよ。」
「・・・・・・・にゃろ。」
リウの反応に少し腹をたて、足を止めて振り返ったが、リウはそんなレオンを無視して素通りしていった。
レオンはそんな彼女の後姿を見て「かわいくねぇなぁおい」っと思いながらレオンも喫茶店に向かって再び足を進めた。