「いや〜、気持ちよかったタトゥね〜!!ベッドという乗り物は!!」
朝早くからベッドで遊んでいるテラ。ふわふわの羽毛ぶとんの上で跳ねていた。
「えっと〜、ベッドは乗り物じゃなくて寝るところなのになぁ〜。」
乗り物と勘違いをしているテラを見て苦笑しながらエリスは言う。
しかし、このふかふかしたベッド。なんと寝心地がいいこと!
ちゃんと手入れされているわ、白で清潔感満載だわ、文句なんて一つもない。
まさにエリスにとってはスウィートルーム。
昨夜、ちゃんとしたところで寝るのは何日ぶりだろうっとエリスは何度も思った。

「お前ら朝早いなぁ〜。俺はこの生活に慣れるのはやっとというのにな・・・・。」
ふあぁっとあくびをすると、レオンはゆっくりと隣のベッドから起き上がった。
そう、魔族にとって朝はつらい。普段は夜に活動して朝に寝るというのが魔族の生活習慣。
それをひっくり返そうというのは、大変なことだ。これを読んでいる読者の皆様もおわかりであろう。

さて。話は変わるが、昨日はあれからレオンが全額を出して宿屋に泊まった。
たまたまレオンがとっていた宿屋に部屋もあったので、そこで寝かせてもらえることになった。
ベッドもちょうど2台あった事もあり、エリスとテラは共有で使わせてもらった。運がいいというのはまさにこのこと。

「そうそう、昨日はいったい何があったタトゥか??いきなり起きろって言われて起きたら知らない人が目の前に立っているし、
宿屋に移動したと思ったらエリスたんはなぜか腹を抱えてぐったりとしていたし・・・・・。」
「・・・・・・・・昨日も悪魔が来たんですよ。しかも、大量に。」
「"も"?!今"も"って言ったか?!・・・・・・・おとついも悪魔が襲ってきたとか??」
レオンがすかさず聞く。
その問いにエリスはうつむいて答えた。
「・・・・・・・ほぼ毎日です。」
「かはぁ〜。めどくせーなぁ。」
レオンはベッドから降りて、かけてあるマントを羽織った。
そして、エリスの方のベッドに立てかけておいたエリスの剣を持ちあげる。
「・・・・・・・・・昨日はこれ持っていなかったな。これ。せっかく立派なこの武器を所持してないなんてなぁ。」
レオンはそう言いつつ剣を鞘から出し、じーっと眺めていた。
剣は朝の太陽の光を浴びてキラキラと反射している。
「・・・・・・・えっと。それはかくかくじかじかなんです。はい・・・・・。」




―― 剣を忘れただなんて・・・・・・・言えるわけないよね。






エリスは心に言い聞かせた。
「ふ〜ん・・・・・・・んっ?」
レオンはこの剣の異様さに気づく。そして、目を細めて剣を見た。
「・・・・・・・これおとついも使われたんだよな?」
「はい。そうですけど・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・なんで血の後がないんだ??新しい血の後・・・まぁ、いわゆる、血のにおいだな・・・・・・・。」


エリスはぐっと緊張が高まる。普段聞こえない胸の鼓動が聞こえるような気がした。
手を握り、ぶるっと体を振るわせる。
レオンはそのエリスの反応を不審に思った。
「・・・・・・・・・エリスたんは切らないタトゥ。相手を・・・・・・。」
「はぁ?!正気か?!・・・・・・・・・どういうことだよ?」
「・・・・・・・・・・・話さないといけないかな・・・・・やっぱり。」
エリスの手が震えているのを見て、レオンとテラはハッとなる。
「いっ!いやいやいやいや!!悪かった!俺が悪かった!!別に話したくなかったら無理に話さなくていいんだ!!!」
「そうタトゥよ!!悪いのはすべてレオンたんタトゥ!!気にすることないタトゥよぉ〜!!」


バキッ

レオンのパンチがテラにクリーンヒット。
テラはものすごい効果音とともに、宙に舞った。
「い、いえ!その!!・・・・・いつかテラに話そうと思っていましたし・・・・・いいきっかけです。」
エリスはベッドに座りなおした。
さっき震えていた手も止まっている。どうやら、落ち着いたのだろう。

「・・・・・・・・・・・・私が・・・・・・・最後にこの手で切った相手は・・・・・・弟でした。」

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私は元、組織のメンバーでした。
その組織は・・・・・・いわば殺し屋みたいな・・・・・。
私が最後に手にすることになった任務は大きな屋敷でした。

任務の内容は・・・・・・その屋敷の主を殺すこと。
私はいつも任務をカンペキに成し遂げていました。
今度のもその感覚で大丈夫だろうと思ったのですが、そううまくいきませんでした。

私は・・・・・・・・・相手が仕組んだ罠にはまって肩を怪我してしまったのです。
そして、たどり着いたのはある一つの部屋でした。

少しでも体力を戻そうと休んでいました。そして、方の応急処置を行っていたそのとき、まもなく一人の若者が部屋に入ってきた。
暗殺者は常に隠密行動。私は居場所がバレたと思い、その人を殺そうとしたそのとき・・・・・・・。


「・・・・・・・・・・・・・・・・おねえ・・・・ちゃん??お姉ちゃんだよね!!」


私はその声を聞いて剣を止めました。そこにいるのは何年か前の戦争で行き分かれた弟だった。
長い戦争でなくした家族。弟を何度もその戦場の地で探したけど、いなかった。
私は両親が死んでしまった時点で、弟も死んでいるだろうっと思っていました。
しかし、こうして弟が生きているその事実が、そのときの私は本当にうれしかった。

弟は私の肩を治療してくれた。傷を包帯でぐるぐると巻いただけではあるが、ある程度血は止まった。
弟も私に会えてうれしいと言ってくれた。任務にはあってはならない行動ではあったが、そんなのには構っていられなかった。
私はすぐに「この任務が終了した後、私と一緒に暮らそう。」っと弟に提案しましたが、弟は首を振りました。

弟にとってこの屋敷の主は命の恩人だったのです。
「殺さないで。」っと何度も弟に言われましたが、任務を捨てることは許されないこと。私は弟から離れたあと、任務を遂行しました。


でも・・・・・それがいけなかった。

その主にとどめをさすその一瞬。



弟は・・・・・・・その主をかばったのだ。
剣は弟を貫き。やがて赤い液体がポタポタと床に落ちる。弟は大量の血をと口から吐いた。
それでも弟は私を見てやさしく笑った。悲しそうに・・・・・涙を流して。
弟は私に何か言おうとしていたが、時間は許さず、すぐに息を引き取った。


「い・・・・・いやああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」




死なないで・・・・・・・死なないで・・・・・。




最後のたった一人の家族を・・・・・・・・私はこの手で殺してしまった。
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「・・・・・・・・・そこからの記憶はないの。なにがあったのか・・・おぼえていない。気がついたら、私は何もない草原にいました。
ただ鮮明に覚えているその時の記憶を忘れないために、横に投げ捨てられていたその剣に、私は誓いました。」
「・・・・・・・・・・もう斬らない・・・・ってことをか。」
レオンが目を閉じてそう言った。エリスも続いてこくんっとうなずいた。
「・・・・・・・・そんなことがあったタトゥか・・・・。」
テラも絶句していた。テラはよいしょとベッドから降りて、エリスの剣を持った。
「・・・・・・・この剣がこんなに重いものだったタトゥか〜。」
エリスは立ち上がり、テラから剣を受け取った。

「・・・・・・・さぁ!行きましょう!!いつまでも暗い話だと頭も重くなっちゃいそうです!!それに、今日も稼がないと!!」
いきなり明るくなったエリスにレオンとテラはびっくりしたが、やがて二人にも笑顔が戻った。
「んじゃ、俺も行くとすっかな!」
「あ、レオンたん!待つタトゥ!!」
テラはレオンの右腕をくいっと引っ張る。そして、にやりと笑った。
「あぁ〜、タトゥら朝ご飯まだなんタトゥよねぇ〜。お〜腹減ったタトゥ〜!!」
「あ、そうですね!みんなでご飯食べましょうよ!!」
「・・・・・・・・・俺の金でか??」
レオンはため息をつく。そんなレオンを見てエリスはくすっと笑った。

「・・・・・しゃあねぇな。とりあえず、外に出てろ。」
「た〜い!!」
「はい!!」
元気な返事を残して、エリスとテラは宿屋を出た。
レオンはエリスの後ろ姿を見届けると、そのまま部屋に立ち尽くしていた。


「・・・・・・・・・似てる・・・・・・。」


ある人物とエリスが重なる。認めたくなんてない。
遠い記憶。懐かしい風景。あのときの笑顔。



どことなく似ているのだ。


「・・・・・・・・セルシェ・・・・・」



レオンは首を左右に振り、部屋を出た。






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