「はぁ〜、お腹ペコペコ〜。」
エリスは大きく息を吐いて、空を見上げた。
ここは小さな町トールント。ここに来るのは本当に久しぶり。
っというのも、エリスの家から隣町までが非常に遠いので、あまり足を運ばないのだ。
なんでここにくるハメになってしまったのか・・・・・それは前回の話へと遡る。
そう、エリスの家は悪魔とともに炎の中へと消えてしまいました。
犯人は・・・・・・・

「タヒョ〜〜!!!すっごいタトゥねぇ〜!!人がいっぱいいるタトゥよ〜!!」

この自称ドラゴンのテラ。テラが吐いたブレスによって悪魔は全滅したが、それによって家までが全焼してしまったのだ。
とりあえず、居場所がないゆえ家が出来るまではお金を貯めるためにぐるぐると世界を旅することにした。
当然、当分はテントと寝袋暮らしの生活になるようだが・・・・・・・。

「ねぇねぇ、これからどうするタトゥか??」
エリスの服をくぃくぃと下から引っ張る。
「ん〜、とりあえず、ご飯かな?」
お腹が減って倒れそうだった。もう、まる2日食べてない。
安い給料ではあるが、一日限りの仕事をテンテンとまわり、働いてためたお金で昼食をいただける。
まさに汗と涙の結晶。あぁ・・・・・なんてありがたいのか・・・・・。

エリスは近くの店でホットドックっと呼ばれる代物を二つ買った。
一つはテラの分。テラは不思議そうな顔でホットドックを見つめていた。
「・・・・・・・・これ何タトゥか??」
テラはどうやらホットドックを知らないみたいだ。
「これは、ホットドックっていう食べ物ですよ!」
『食べ物』という単語を聞いたとたんに、テラの目が輝きだした。
ホットドックを渡すと、テラは夢中になってホットドックにかじりついた。
「おぃし〜タトゥ〜!!!!」
どうやら満足しているようだ。
エリスも食べようと大きく口をあけようとしたそのとき・・・・・・・・。


ドン



エリスの背中に思いっきり何かがあたった。
それと同時にホットドックはエリスの手の中をスルッと抜け、空中へと投げ出される。
エリスが手を伸ばすもむなしく、ボテッっという音を鳴らして地面へと落ちた。
「あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
なんたる不覚。なんたる不運。たった一つの貴重な昼食が今、この瞬間っっ!!地面へと落下した。
心をこめてお仕事をして貯めたお金がいとも簡単に、走っていた子供に踏まれていく。
「わりぃ!!あたってごめんな!俺急いでるから、じゃあ!!!」
後ろから男の人の声が聞こえた。エリスが振り返ったときには、もう後姿しかなかった。
短い金髪の髪。そして、黒いマント・・・・・・・それが印象的だった。

「ごちそうさまタトゥ!あれ??どうしたタトゥか???」

食べ終わったテラは満面笑みを浮かべてエリスを見ていた。
正直ちょっと、腹がたった。












空も暗くなってきたころ、エリスたちは町の中で休むことになった。
宿屋には入ってない。よって、狭い路地裏での一泊になるが、森や草原で野宿よりはるかにマシだ。
「さぁ〜!寝るタトゥよ〜!!」
早々と普段使っている寝袋に潜るテラ。そんなテラを見ているとエリスも眠たくなってきた。
ぐぅっと切なくなくお腹を押さえながら、エリスは泣く泣く所持しているマントを広げてくるまる。

エリスの意識もしだいに遠のいていった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・お腹減ったぁ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


ドォン!!!!



すさまじい音と嫌な寒気でエリスは飛び起きた。
時計の針は2時近い。
今日は本当についていない。今日も悪魔が出るとは・・・・・・・・。
テラを起こそうと思ったが、テラはぐっすりと爆睡している。
時間がたちすぎるとまわりに被害が及ぶ。今でもポツポツと家に明かりが灯っていっている。

人が集まってしまうその前に町を出ないといけないと思ったエリスは、テラを起こさずに街の外へと向かった。
町の入り口へ行くと、悪魔はもうあと一歩のところまで来ていた。エリスは外へと悪魔を出そうと思ったが、門前で周りを囲まれてしまった。

「・・・・・・・・多い・・・・。」

思ったよりも多い。エリス一人で片付けるには多すぎる量だった。
しかし、時間がたちすぎると周りの人にまで被害が及ぶ。
それを理解しているエリスは決断が苦しかった。

―― ・・・・・・・・・・切るしかない・・・か・・。

エリスは唇をかんだ。震えるその体を抑えて構える。手はいつも剣のかかっている背中の方へ・・・・・・・・




そして・・・・・・・・気づいた。







「・・・・・・・・・・・あれ?」

伸ばした手はスカッスカッと空を切る。
そしてそれに完全に気づいたとき、血の気が引いた。



・・・・・・・・・剣を忘れたーーー!!!!



幸運というべきか、不幸というべきか。
それは悪魔を見るとわかること。結果は、まったくもって不幸。
「どどどどど、どうしよぉーーー!!!!剣が無いですーー!!!」
エリスの顔は青ざめ、汗握るその手は頭の上に。
素手?!素手で行く?!無理でしょう!?周りは囲まれている。どうにかして逃げなければならない。
そうこう考えているうちに敵の攻撃がきた。
するどい槍がエリスの体をかすめる。
エリスはとっさに避けてみるものの、すぐに次の攻撃が入る。ハッキリ言ってキリがない。
「ど、どうしたら・・・・・・・」

ドスッ

横から大きな棍棒が飛び出し、エリスの横腹に直撃した。
エリスは声を出すこともできず、その衝動で大きく町の中へと吹っ飛んだ。

「・・・・・・・・・っ・・・・・」
目の前がくらくらとする。動こうと意識はしているものの体が言うことを聞かない。
ズキズキと痛む横腹を押さえながら、うずくまる。


・・・・・・・・・・・・お腹減ったぁ。


―― これが最後の欠点となってしまったなんて・・・・・・・・・・・・。



シ ン デ シ マ ウ ノ ?



ドクンと心臓が鳴る。


シナセナ・・・・・・イ


ズシャッ


その音を聞いてエリスは我に返った。
顔をあげると、目の前に黒いマントが見えた。

「・・・・・・・あっ・・・・・・。」


―― ・・・・・・・・・昼間のホットドックの。


「おぃ。大丈夫かぁ??」
片手で大きな鎌をまわす少年。その刃には赤黒い血がついていた。
金髪をさらっとなびかせ、エリスの方へとやってくる。
「おぉ、生きてるな。しっかし、あの攻撃をくらって生きてるとは・・・・お前、丈夫なんだな〜。」
男は鎌を地面に立てると、背後から襲ってくる悪魔を見ずに、ワケのわからない言葉を小声で唱える。
すると、男の下に魔方陣が現れた。現れるとともに、男は鎌をおもいっきり魔方陣に突き立てた。
魔方陣からは紫の光と炎があふれだした。悪魔たちはそれらにくるまれ、やがて溶けるように消えた。
あれは魔法であるとすぐに理解することできたが、見たことのない魔方陣。
エリスはようやくその場に立ち上がることができた。横腹を押さえながら、頭を下げる。

「あ、ありがとうございます。あのぉ〜・・・・」
「ん?・・・・・・あれ??もしかして、昼間ぶつかったやつ??」
エリスに指を指して男は聞く。
「・・・・・はい。」
「あぁ〜、わりぃな!!マジでごめん!!ちょっといろいろあって急いでて・・・・。」
髪をくしゃっと上に上げて男はあははっと笑う。
「あの・・・・・あなたは・・・・・・?」
「ん?何、逆ナン??」(*逆ナン=逆ナンパ)
「ち、違いますよっ!!」
男は持っていた鎌をポフッとマジックのごとく手元から消すと、ニッと笑った。
「俺はレオン・ランディ!!あぁ〜、種族は魔族だ。」
「はぁ。種族までご丁寧にどうも・・・・・。」
エリスはまた小さく礼をした。
「私はエリス・グラティスです。よろしくお願いします。・・・・・・えっと、種族はハーフエルフです。」
「ふ〜ん、ここはけっこうエルフやハーフが多いんだな。まぁ、よろしく!」
どうやらレオンという若者はこの世界のものではないらしい。
言葉とともにレオンの手はエリスへと伸ばされた。エリスはその手を取り、握手をしようと思ったが・・・・・・・。


ズキッ



「・・・・・・・ぁっ!!」
急にきた激しい痛みにより、エリスはその場へ手をついて倒れた。
「お、おぃ!!」
レオンは急いでエリスを抱える。エリスはいたたっとお腹を抱えた。
「いきなりなんだよ〜。石につまずいて転んだとかいう冗談はやめてくれよ?」
「い、いえ・・・・・あのぉ・・・・・・。」
レオンは不思議そうな顔をしてをエリスを見る。
そして、彼女の行為を見てピンときたのか。ニッと笑った。
「・・・・・・・なるほどぉ・・・・さっきの一撃でやられたな??」
「・・・・・・・・・・・・。」

エリスはお腹を押さえながら、へたんとその場に座る。

―― 本当はお腹が減って動けないなんて・・・・・・言えるわけがない。

エリスはそっと心の中でそう言った。
「・・・・・・しゃあねぇな。」
レオンはそう言葉を吐くとエリスの両足の下に右腕を入れ、左腕を腰へとまわしひょいと持ち上げた。


いわゆるお姫様だっこだ。


「ひゃあぁぁ!!」
エリスはいきなり宙へと体が浮いたことに驚く。それ以上に、こんなことをされたのは初めてだったので、恥ずかしかった。
思わずうつむき、顔を上げようとしなくなる。
「だだだだだ、大丈夫です!!歩けます!!歩けますって!!!」
「おいおい!ちょっと持ち上げただけだろ??顔かなり赤いぜ?」
レオンに言われ、反射的にエリスは頬を押さえる。自分でもよくわかっていた。すごく顔が熱かったから。

「まぁ、気にすんなって♪・・・・で?宿はどこだ??」
「・・・・・・あ、あの・・・・・宿・・・・借りてないです。」
「何いぃぃぃぃ?!」
レオンはマジかよっと呆れた顔をして、ため息をついた。
「・・・・・・マジでこれはシャレになんねぇなぁ。宿・・・・開いてるかな?とりあえず、そこまで行ってみるか。」
エリスは宿までこのままなのかと顔を赤らめたが、自業自得。
宿に着くまで黙っていることにした。





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