ふっと目を開けると、緑色の天井が見えた。
天井はそれほど高くはない。
傘のついた電気は揺れる事なく制止していた。

「ここは・・・・」

「気がついた??」

その声に驚いて、瞬時に体を起こす。
にっこりと笑っている少女。年は俺と同じくらい。髪や目は水色でショートカット。そんな少女が俺の目の前で座っていた。
「もう〜!!びっくりしたよ。買い物から帰って来たら、うちの前で倒れてるんだもん。心臓が止まるかと思った!!」

その一言をいい終わると、俺にずぃっと顔を近づける。
「ねぇ。名前なんていうの??」

「・・・レオン。」

俺は成り行きで自分の名前を言ってしまった。

「レオンか〜。なんかかっこいいね!!
あたし、セルシェっていうんだ。フルネームはセルシェ・リナンアード。」

嬉しそうに笑うと、窓の方へと彼女は移動する。

「ところでさ。どーしたの?あんなところで倒れててさ。」

「いっ?!」


この理由を言うのは、正直ひけた。

じつのところ、俺は魔界を追放された。
なにか悪いことをしたからではないというと、嘘になるが、少なくともそういう大きいことではない。
ただ魔王に嫌われていたという事実から発展した。

・・・・・そーゆーことにしておこう。

とにかく、俺は追放されたわけだ。
だが、今喋ったばっかりの初対面のやつに、こんな重い理由・・・・ってか、個人のことを言うのは俺も嫌なんで。


「・・・・まぁ、ちょっと散歩してて迷って歩き疲れて腹減ったから倒れてたんだよな。」

「ふ〜ん。でも、君って魔族なんでしょ?」

「なっ!?」

ゾクっと体が震えた。
魔法も使ってないのに、魔族だと判断した彼女。
俺はキッと彼女をにらみつけた。

すると、彼女は突然焦って弁解をする。

「あ、やだ。警戒しないで!!あ、あたし・・・そういうの・・・・わかっちゃうの。ごめん。」

っと、今にも泣きそうな顔をするもんだから、俺は警戒するにも警戒できず、とりあえず黙っていた。

「・・・・・・お腹・・・減ったんだよね?なんか作ってあげる!!」

セルシェはすくっと立ち上がり、鼻歌交じりで台所へと行ってしまった。


そんなこんなでセルシェとは知り合った。
ものすごくまったり(?)とした出会いだった。

俺はその後、自分の家を建てて、しばらく魔界ではない世界に住んでいた。
何度か魔界に行こうかと悩んだが・・・・な。
セルシェの家へはほぼ毎日、行っていた。
最初はご飯が食べたいがために行っていたなんて、今でも彼女には言えないわけだが。

でも、彼女に会うたび・・・・彼女を見る目だけでなく、俺自身も変わっていった。

彼女の笑顔は俺にとって心地よかった。俺が来るたび、あまりにもうれしそうな顔をするもんだから。


彼女と知り合ってからほとんどすぐに近かった。
俺は彼女の秘密を知った。


そのときも彼女は料理をしていた。昼ご飯の支度のために。
っと、突然彼女は手を止めたんだ。


「・・・・・・・・・どうしたんだよ??」

「・・・・・・ごめん。レオン。ちょっと待ってて。すぐ戻るから。あ、外・・・・出ちゃダメだからね!!」

そう笑顔で言うと、彼女は外へと出てしまった。

部屋には時計の音だけが残った。
俺はその音が早く聞こえて仕方がなかった。

時間さえも惜しい。そう思えてくる。

針はどんどん進んでいく。10分、20分・・・・そして、40分。
時計の長い針は一周してしまいそうだった。

しかし、それでも彼女は帰ってこなかった。
俺は彼女の言うことを聞かないで外へと出ることにした。


「セルシェ!!遅すぎ・・・・だ・・・・・・・・・・・・?!」

そこで待っていたのは、今まで見たことない無数の悪魔、その死体。
死体は一斬りで死んでいるのがほとんどだった。狙いはどれも急所ばかりだ。

俺がそれ以上に心に印象だったもの。

剣を持ったセルシェの後ろ姿だった。


「・・・・・・・れ、レオン!!き、来ちゃダメって行ったのに!!」

「き、来ちゃダメって・・・・こ、この無数の悪魔・・・ほとんどを・・・・」

ふっと気がつくと、悪魔がすぐそばまで来ていた。
俺はすぐさま、カマを出して魔法を使って悪魔を自分から遠くへ飛ばした。
間一髪だったもんで、かなり冷や冷やした。

「・・・・・・・・・・つ、強いね。」

「・・・・・・どーでもいいから、とっとと片づけようぜ。話はそれからだ。」


俺たちはなんとかこの無数の悪魔を退治することができた。
もうそのころには俺たちはボロボロだったが。

セルシェの動きは早い。そして、強かった。
彼女に近づく悪魔は一瞬でバタバタと息を失っていく。

俺が来て30分後。なんとか戦闘は終了した。


「・・・・・ありがと。手伝ってくれて。」

「・・・・・・あの・・・・さ。」

「・・・・・・・・・・・・・いつも慣れてるから。一人で倒すくらい。」

俺の心を読みとった様に笑顔で答える。
俺が言いたいこととは少し違った訳なんだが。

それより気になったのはセルシェの言葉。

「・・・・・いつも?」

「・・・・・・うん。あたしね。生まれてからずっと・・・悪魔に追われてるんだ。
         原因はわからないんだけどね。その数や強さはどんどん大きくなってきている。」

セルシェはにっこりと笑った。

「だから、慣れてるの。・・・・・軽蔑しちゃったでしょ?あたしのこと。
                         悪魔に呪われた人だから。」

俺はそのとき、悲しそうにほほえむ彼女を初めて見た。

不思議だった。ずっと一人でいた彼女のこと。
いつだって家に行ったけど、やっぱり彼女は一人だった。
こいつはいい奴だ。だからこそ、誰もいないのが不思議だったんだ。

おそらく、その悪魔たちがいたからこそ彼女は・・・・・。

「・・・もう誰も傷つけたくなかった。なのに・・・・あなたを巻き込んでしまって。」

ごめんねっと彼女は涙をこらえて言った。


俺はそのとき、初めて。人を愛しいと思った。



「・・・・・してない。軽蔑なんて・・・・。」

「・・・・・えっ??」

「巻き込んだなんて・・・思ってもいねぇ。」


俺は・・・・彼女を引き寄せ、抱きしめた。
彼女は自然と体が固まっていた。


「・・・・・・・・お前は何にも悪くねぇ。だから、人を拒絶するな。怯えて逃げてるんならとっく逃げてる。
                      お、俺は・・・・俺が好きで勝手にここにいてるんだからな!!」

「・・・・・・・・・レオン。」


お互いの顔を合わせていなくとも、俺はわかった。
彼女は泣いていた。
ひっくひっくと声を上げて、必死に俺の肩を手で強く握っていた。


「だから・・・・・一人を慣れてるだなんて・・・言うんじゃねぇよ。」


彼女は俺の言葉にうなずき、何度も言った。
「ありがとう。」という言葉を。



俺は彼女が泣いているとき思った。


俺は・・・・・・・・・・魔界に帰れなくったっていい。


セルシェと一緒にいられるのなら。











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