俺はあの秘密を知った時から、ずっとセルシェと一緒にいるようになった。


彼女の秘密を知ったんだ。
もちろん、俺もこの世界へ来た理由は後に話した。
彼女は「そうだったんだ。」っと悲しそうに言ったが、俺は気にしていないから大丈夫っと返事をした。



今は・・・・この時間が俺にとって幸せなんだ。




さすがにこの言葉は彼女には言えなかったが今思うと、うすうす彼女もわかっていたんじゃないかと思う。

悪魔が来たら、俺も戦いに参戦した。
その成果もあって、俺とセルシェはどんどん強くなっていった。

あのときの1回1回の戦いが俺にとっての修行だったように思える。

悪魔は日々強くなっていく一方だったが、ハッキリ言って怖くなかった。
それは・・・きっとセルシェも一緒だったんだろうと思う。


セルシェには宝物があった。
それは近くの山を登って少し行ったところにある大きな木の穴に隠された銀のトランペット。

「これはね。あたしが物心ついたころから、ずっとそばにいたあたしの友達なんだ。」

始めてこの場所に来たときに言ったセルシェの言葉。
そして、トランペットを持って吹き始めたんだ。

セルシェの奏でる音色はとても優しくて、穏やかで、心の底が温かくなる。
いつまでも聞いていたいとすら思った。



セルシェには欲しい物があった。
少し遠くの町に売っているキラキラと光る高価な銀のテディイベアのブローチ。
そこに行くと必ず足を止め、目を輝かせてガラス越しからそのブローチをずっと見ていた。

セルシェはくまが好きだ。
部屋にもたくさんの熊のぬいぐるみがあった。


俺はセルシェの誕生日の日・・・それを買おうと思っていた。

それを買う理由なんていっぱいあった。


いつも彼女からいろんな物をもらってたから。
彼女の喜んだ顔を見たいと思ったから。

そして・・・・・それを渡したとき、自分の気持ちを伝えようって思っていたから。




ついに、その日。彼女は俺に言った。



「さてと。もうそろそろ買いだしに行かないとダメだし、レオン!!着いてきてっ!!」

「・・・・・別にいいけど??」

俺が返事をしてから、沈黙の時が流れる。

おかしいなっと彼女を見ると、めちゃくちゃ驚いた顔で俺を見る。
すると、ずずいっと身を乗り出して俺に顔を近づけた。

「・・・・・・・・なんか悪いもんでも食べた??」

「はぁ?食べてねーよ。」

「だ、だって!!そ、その・・・・変よっ!!」

「・・・・・・・。」

俺は呆れてものを言えず、むすっとした顔でセルシェを睨んだ。

「だだだだって、今まで一度も素直に「はい!」って言った事なかったんだもん!!」

「俺だってそーいうときあるっつーの。」

俺はプッと笑うと、彼女も次第ににっこりと笑った。

「じゃあ、行こっっ!!」


俺たちは町へと出た。



「レオン!!一緒にお店まわろーよ!!!」

「あ、ちょっとマテ。」

町へ着いてから数分後に彼女がそう言った。
だが、俺が今日ここに来たのは・・・買出しよりももっと大事な用事。


「一緒に来たのに一緒にまわらないってどーゆーことよ。」

「俺ちと、寄りたい店があるからさ。」

しばらくプクーッと膨れていたセルシェだが、ふぅっと息をつくとまたいつもの笑顔に。


「わかった。じゃあ、それまで食料品のところにいるから!!荷物いっぱいになりそーだから早く来てよね!!」

「はいはい。」

くるんっと180度回転すると、ルンルンと向こうへ行ってしまった。
俺はその後姿を見送ってから、あのお店へと向かった。



女の子らしいかわいいお店。
男の俺が入るのもどうかと思ったんだが・・・・。

レジの近くに行くとガラスの箱。

その中に今もキラキラと光る銀のテディベアのブローチ。


「あの・・・・すみません。これください。」

俺はそのブローチを指差して店員さんに言った。
店員さんは「はい!」っと返事すると銀のテディベアのブローチを取り出し、店の奥へと入っていく。

店員さんが店の奥に入って1分も経たないうちに小さく遠くで音が聞こえた。

ドーン ドーン・・・・っと。

次第にその音は大きくなっていく。


「・・・・・・・な、なんだ??」

「どうぞ。」

店員さんはきれいにラッピングされた袋を俺に渡した。
俺がそれを受け取ったとき、外から人の声が聞こえた。


「ば、化け物だっ!!」

「モンスターだああぁぁぁ!!!」

「悪魔よ!!早くみんな逃げて!!!」


・・・・・・・・・・悪魔・・・だと??


俺はお金をバンッと台に置いて、すぐに音がする方へと走った。



もう少し早くに気づくべきだった。
俺がそこへ着いたとき、ほとんどの悪魔が倒れていた。


・・・やはり彼女の姿があった。


でも、いつもと違う。


傷が深いのか・・・・流れ出る血は止まらず、服はボロボロで、持っている剣で何とか立っている様子だった。
片手には気を失った子供が。


「せ、セルシェ!!!」

「・・・・・レ・・・オン・・・ごめん。この子をお願い。」


セルシェは俺に子供を渡す。
俺は子供を受け取り、すぐに彼女の腕を引いた。


「ダメだっ!!!後は俺がやるっ!!お前は休んどけ!!」

「無理よっ!!あの悪魔たちには・・・・魔法は効かないっっ・・・」

「お、お前魔法使えねぇのに!!そんなのわかるわけ」


ハッとセルシェを見た。
彼女はやはり微笑んでいた。

俺と会ったときのことが、ふと頭をよぎる。

そう・・・・・彼女は・・・・


「あたしには・・・・わかるの。そ・・・いうの。」

「っっ!!マテっ!!」

一瞬のスキだった。
彼女は俺の腕から離れて剣を最後の一匹の悪魔に振る。
同時に悪魔もセルシェに攻撃を与えようと腕を伸ばした。

悪魔はバサッと切られた・・・・セルシェも悪魔の攻撃を直でくらい、地面へと落ちる。
悪魔はものすごい悲鳴をあげ、やがて消えた。

俺は子供をそっと地面へと寝かせると、すぐにセルシェのところにいった。


「バカヤロォ!!なんでそんな無茶するんだっ!!お前っ!!」

「・・・・・・え・・へへ。でも、勝ったでしょ・・・??」

相変わらず、この状況でも笑顔。
でも、力の無い笑顔だった。

「・・・・・・なんで・・・俺を呼ばなかったんだ??」

「・・・・・・・・言ったでしょ?一人は慣れてるって・・・・・。」

彼女は俺をまっすぐに見つめた。


「あたし・・・・あなたはここに居てはいけないって・・・思った・・・」


スッと涙が彼女の頬を伝った。
息もどんどん・・・・弱っていく。


「うれしかった・・・・こんなあたしでもそばにいてくれて・・・・だってあたしの・・初めての友達だったんだもん。」

ゴホッゴホッと咳きをし、血を吐く。
俺は彼女をぐっと強く持つ。

「・・・・・・ほんとに・・ずっとずっと・・・このままがいいって思った。
でも、それはあなたにとって良くないの。」

「っ!!俺だって・・・このほうが!!」

彼女は首を左右に振る。

「ダメよ。・・・・・ここに居たら・・・・あなたはきっと・・・ずっと魔界に帰れない。
 あなたには帰ってやるべきことが・・・あると思うの。魔界で・・・・しなくては・・・ならない事が・・・・。」

再びゲホゲホッとセルシェは咳きをした。
それはさっきよりもひどく、血が・・・・咳きをする度に吐かれる。

「これ以上しゃべるなっ!!」

「嫌・・・聞いて・・!!・・・・・あたしの最後だから・・・」

ぎゅっと服の袖を捕まれる。
かすかに感じる・・・セルシェの力。


「最後なんていらねぇ!!・・・そんなの」







「・・・・・好きよ。」



スッと伸ばされた手が頬に触れる。1、2秒くらいだったか・・・・。
彼女は手を俺の頬から離すと、にっこりと笑った。

俺は突然のことに言葉を詰まらせた。

「・・・・・・・ずっと言いたかった。でも・・・言えなかったから。」

「・・・・・セルシェ」

「初めての友達だったけど・・・・あたしの初めての思い人だった。
そばにいるだけで・・・・幸せだったの。」


セルシェの涙が頬を伝う。
びくっと彼女は突然来た痛みで震えた。

俺はそのときふと、手に握り締めていた小さな袋に入ったブローチを思い出し、手に出した。
そして、セルシェに見えるように近づける。

「・・・・・・・・これ・・・くまさん??」

「今日・・・お前の誕生日だったから。」

彼女の目には涙がいっぱいたまった。
そして、あふれ出して再び涙をこぼす。



・・・・・・・・・・・・俺もずっと言えなかった。



お互いこんなにそばにいたのに・・・・・歯がゆい気持ちが邪魔をして心の奥にしまっていたんだ。



「・・・・・・・・・好きだ。俺は・・・誰よりもお前が・・・好きだっ・・・!!」


俺は彼女の手をぐっとにぎった。

「お前が俺のそばにいてくれたから・・・・・俺はここまでこれたっ!!お前から俺は生きる意味や人の愛しさを覚えたんだ!!」

涙が・・・・とまらなかった。
ただ言いたいことを言い続けた。彼女に向かって。

「・・・・・・・もうどうしようもなく・・・・お前が好きなんだ。」


彼女は・・・・俺の言葉を最後まで聞いていた。微笑一つくずさずに。
俺が言葉につまったこのとき、セルシェは言った。




「・・・・・・・・・レ・・オン・・・ありがと・・・しあわ・・・せだ・・・よ。」


彼女はそれを最後に言葉を失い、目も・・・二度と開くことはなかった。
銀のブローチをぎゅっと握り締めたまま。

ずっと・・・・・。


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「・・・・・・・そ、そんなことが。」
エリスはうつむいて、悲しそうな顔をしていた。

「まっ、3年も前の話だけどな♪・・・・・・でも、こんなのは過去の話だからいいんだ。」

レオンはとたんに険しい顔をした。

「・・・・一ヶ月前だ。俺がこの空の森にたまたま入った時、俺は彼女を見たんだ。」

「えっ・・・・でも、セルシェさんは亡くなったんですよね??」

レオンはうなずいたが、顔をいまだ険しいまま。

「・・・・・・・俺も見間違いだと思った。あのとき、俺と目が会うまではな。
 俺の顔を見るなり、彼女は顔色を変えてすぐに俺の前から消えたんだ。」

「・・・で、でもそれは」

「あの後・・・気になったから墓を見に行った。・・・・・・・俺の思ったとおり、セルシェはいなくなっていた。」

エリスの体はこわばって硬直した。
背筋をぞくっと何か冷たいものが通った気がしてならなかった。

「・・・・・・・・・・・な、なぜ??」

「そんなのわかってたら、ここにはいねぇよ。」

エリスは「そっか」とうなずき、うぅ〜っとうなる。
レオンは空を見ながらふぅっとため息をついた。

「・・・・・・・・わ、私じゃ・・・」

「ん?」

エリスはぐるっとレオンの方を向いた。
レオンと目があった瞬間、彼女は顔を赤くしたが顔を上げて・・・・


「私なんかじゃ・・・力になれないと思うんですけど!!
           お邪魔で無ければ・・・・・てて、手伝うからっっ!!」

「どもってるぞ。おぃw」

ププーッと笑い飛ばした。
エリスはカーッといっそう顔を赤くしてレオンをぽかっとひと叩きする。


「こ、これでも真剣ですよ。」

「んじゃま、そーゆーことにしといてやる。」


話が終わったのは日が昇ろうとしていたときだった。


エリスは何かを考えていた。

昨日の占い師から・・・そしてレオンの話を聞いて。



― 大きな選択肢が目の前に立つ

        早めに事に気づくことが全てを成功させる鍵 ―



エリスは目を瞑ってみんなが起きるのをもう少し待つ事にした。 












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