お互い相手をよく知らなかった。
なのに・・・どこかで逢ったような懐かしい感覚がする。




初めて言葉をかわす・・・あなたと。




「・・・・・・・・・・なんか話しづらいわね。お互い初めてだし。」

しばらく続いていた沈黙を先に解いたのはチェインだった。
エリスはうつむいていた顔をあげ、チェインの問いかけに返事をする。


「・・・・・・やっぱり私はあなたなんですよね?」

「そうね。正直、私もよくわからないんだけど。」

チェインは上を見上げた。
上を見上げても見えるものは何もないのは承知の上だが。


「・・・・・私・・・ずっとこの日が来るのを待ってた。」


独り言のように吐いたチェインの言葉をエリスは黙って聞く。


「もう一人の私と・・・向き合うこの日を。」


チェインはその場に腰を下ろした。
その様子は闇の中に沈む・・・・そんな風にも見えた。
エリスもチェインの隣へと歩いていき、腰を下ろす。


「正直、このまま私の存在に気づいてくれないんじゃないかって思っちゃったのよね。」


チェインは笑いながら言った。
その言葉を聞くとエリスは目を細め、表情を曇らせる。
何かいろいろと責任を感じているんだろう。

「あ・・・ごめん。別にそういう悪い意味で言ったわけじゃないの。そんな顔しないでよ。」


ただねっと続ける。


「私にとって・・・長かったなって思っただけなの。」

エリスはチェインの言葉を聞くだけしかできなかった。
自分は今彼女になんと言えばいいのか。言葉が見つからない。


ただ・・・エリスも同じ事を考えていた。
ここまでの道のりは・・・・やはり長いものだったと。



「変ね。言葉では表せないけど・・・・なんだか今・・・すっごく嬉しいのよ。」

チェインは目を瞑って、少し悲しそうな顔を見せる。


「私・・・・今までが一人だったからかな。」


両親なんていない。ましてや友と呼べる人もいない。
チェインにとって、エリスやレオン、テラやリウは初めて友と呼べる存在だったのかもしれない。

エリスも彼女のその気持ちはよくわかった。
今まで自分もそうだったからだ。



・・・・それはきっと孤独というもの。


定期的に来る悪魔の軍団。それから避けるため、エリスは町や村から離れたところに家を建てた。
人と話さない日がほとんどで、正直一人でいる孤独に耐えられないときがあった。

町に行くのも人と会うのも・・・次第に怖くなっていった。



きっと彼女も同じものを感じたのだろう。エリスの中に一人でいたのだから。
誰にも会う事なく。ずっと一人で。




「まぁ、たしかにね。あいつらどこかネジが外れて入るんじゃないかって疑うくらい、アホで変な奴らだけど」


チェインは優しく微笑みかけた。
それも最高の笑顔で。



「私にとっては・・・・最高の連中だったわ。」


その様子は無邪気に笑う子供のようで、エリスも自然と笑顔で返していた。
彼女はきっと今本当に幸せなんだろう。
そう感じているのなら、っと思うとエリスはうれしくて涙が出そうだった。



チェインは立ち上がり背伸びをした。
それから、エリスから少しずつ・・・距離をおいていく。




「・・・・・どこいくの?チェイン。」

「・・・・・・・・さぁ。わからない。」


彼女の姿をふと見たとき、エリスは気づいた。
彼女の腕は向こうがうっすらと見渡せるぐらい透けていた。


「・・・・・・・私はどこに行くのかしらね。」


チェインは透ける自分の腕を見て悲しそうに笑った。


「・・・・えっ・・・ど、どうして・・・??」

一体何が起こっているのかわからない。自分の目の前で今起こっている事は果たして現実の事であるのか。
それすら疑ってしまうほど、不思議な光景にエリスは混乱していた。




― チェインはだいぶ弱っているわ。おそらく、ヘタしたら今にも彼女の存在は消えてしまう。



のろいが言った言葉が脳裏によぎる。
その瞬間、エリスはハッと両手で口を塞いだ。



「やっぱり・・・遅かったのかな。それとも・・・・・初めから統合し得なかったからかも。」


「っ私のせいです・・・・私がもっと早く気づいて入ればっ!!」

「違う。エリスのせいじゃない。私が消えることは・・・運命だったのよ。きっと。」


「そ、そんな・・・・」



チェインは上を見ていた。そのときも、彼女はやっぱり悲しそうに微笑んだ。
エリスはどうしていいのかわからず、ただ口をパクパクさせて必死に対策を考えていた。

そうしている間にも、彼女の体は消えていく。
エリスの目にも自然と涙が溜まる。


「でも・・・最後にエリスに会えてよかった。私が消える前に・・・・ね。」

「・・・・・・・・・!!」


「だから・・・・・・・・・・・」










私を忘れないで。











チェインはにこっと笑って目を伏せた。
























ドウシテ・・・・ドウシテ??

ハジメカラ・・・・・ソウイウ ウンメイダッタノ?


サヨナラ? ホントウ ニ サヨナラ??
 







ワタシハ・・・・・


















エリスは彼女へと近づき、手を伸ばした。














「消えちゃダメです!!」

「エリス?」

エリスはチェインをぎゅっと抱きしめた。
いきなりことにチェインは目を丸くして驚く。


「消えちゃダメ・・・消えちゃダメですっ!!そんなの・・・あなたがかわいそすぎる。」


そう言って、彼女を抱きしめる。
もうすでに透けて消えかかっている彼女の体を離すまいという風に。





「私たち・・・こんなに近くにいたのに、まだ会ったばかりで。」

「・・・・・・・・・」

「お互いの事・・・なんにもわかっていなくて。」


「・・・・・・・・・・・・っ。」


「あなたのことをみんなから聞いた時、一体どんな人なんだろうって思った。
あなたの言葉はとても強くて勇気が出て、安心した。あなたの笑った顔・・・すっごくステキだった。」


「でも、私・・・知らないことがまだいっぱいあって。山のようにたくさんあって。
みんなは知っているのに、やっぱり私は何もしらなくて。なのに・・・・なのに・・・・っ!」


エリスは顔を上げると、涙がポロポロとこぼれ落ち彼女の頬を伝った。



「どうして私は消えないのにあなたが消えなくちゃならないんですかっ!!
あなたが何をしたって言うんです?なんにもしていないじゃないですか!!

なのに・・・・・なんでそんな運命だって言うんですかっ!!
あなたが消えてなくなる運命・・・・そんな悲しい運命なんて、私は信じないっっ!!」



止まらない涙を拭く事なく、エリスは泣きながら訴える。
チェインの体はもう上半身しかなくなっていた。
それでも、エリスは強く強く抱きしめる。


「今まで気づいてやれなかっ・・・・った・・・・・チェインの存在に・・・気づいてやれなかったぁ・・・っ。
でも、これからは違うっ!!私は絶対にチェインを一人にさせないっ。」

「・・・・・っ・・・エリスっ」


「だから・・・・一緒にいて・・・一緒にいてよぉっ!!!」










キエナイデ





モウ ヒトリ ニナンテ シナイカラ

ソンナ ウンメイダナンテ イワナイデ

ワタシヲ オイテイカナイデ




ドウカ・・・・・・イッショ ニ イテ。











チェインも・・・・・気がついたら涙が流れていた。
自分のことで、こんなに人が思ってくれただろうか。

こんなに・・・涙してくれただろうか。

今日・・・初めて会ったばかりなのに・・・・・。


どうして必死になってあなたが泣いているの?
どうして初めてなのにこんなに強く抱きしめてくれるの?
どうして一つ一つの言葉が温かく感じるの?


どうして?


今、自分は消えようとしている。
自分でもよくわからない波に逆らえず、流れようとしている。


もし・・・この流れに逆らえるならば・・・・・・。


「・・・・・・・・私も・・・一緒にいたい。」


「・・・・・・・・・・っ?」


「・・・・・・みんなと・・・エリスと・・・。」


そう、チェインが口に出した時。

光が見えた。
優しい優しい光が。

光はエリスの石からあふれていた。


「・・・・・これは・・・・・一体・・・」


― エリス・・・・チェイン・・・・・。



「その声は・・・・クラノスさん??」


エリスは声を震わせながら聞く。
そうよっとクラノスは答えた。


― 石に力を注いだのは正解だったわね。よかった。間に合って。


さぁっとクラノスは言う。


― あなたたちの気持ちが一つならば・・・・望みをかなえましょう。



「・・・・・・・・・望み・・・。」


エリスはチェインを見る。
チェインももちろん、エリスを見ていた。


「私たちは・・・・・・・・・・・」





光が二人を照らし、やがて一つとなった。
そして・・・・・・・・光はその場に闇を残して消え去った。








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