エリスはきょろきょろと周りを見渡した。
まわりにはやはり人が多くにぎわう風景が見える。
大きな紙袋をよいしょっと持ち直して、また再び歩き出す。
「・・・・どこに行ったんだろ。」
エリスが探しているのは、彼女と一緒に買い物に来ていたテラだ。
買い物している間はずっとそばにいた。それが終えた途端、こつぜんと消えてしまったのだ。
テラは体が青くて変わっているので一見見つけやすいが、体が小さいためこの人が多い中探すのは非常に難しい。
「うぅ・・・・困ったな。離れちゃダメってあれだけ言ったのになぁ。」
エリスはため息を吐くように一言つぶやいた。
気がつくと、エリスは一面に海が見える浜まで来ていた。
太陽の光できらめく砂と海がとてもきれいだった。
「わぁ・・・・きれい。」
むぎゅう
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん？
エリスが前に足を進めたとき、嫌な音が足元から聞こえてきた。
やわらかい感覚が足から感じられる。
エリスは予想をしつつも、おそるおそる下を見た。
「ひゃわあああぁぁぁぁぁ！！！！ごめんなさいっ！！」
エリスの足の下には一人の人間が倒れている。
エリスは急いで足をその人の体からどけた。
踏まれたにもかかわらず、黙ったままのこの人。服の感じからして女性だと言う事が予想される。
しかし、少し待ってみても起きる気配がない。
もう死んでしまっているのではないか。そうエリスが考えたとき、かすかにぴくっと体が動いた。
「・・・・・・・・へ・･た・・・・」
「・・・・えっ？」
「お腹・・・・減った・・・・」
「！」
かすれかかった小さな声を聞き取ったエリスはしばらくその人を見ていた。
そしてエリスは買い物袋から一つのリンゴを取り出した。
― 間 ―
「おいしかったぁ〜〜。こんなにりんごがおいしいだなんて思ったのは初めてよ〜。」
りんごを食べ終えた女性はにこやかに笑う。よく見ると、すごく美人。
りんごを食べた総数は合計８つ。
みんなの分はもうないなっと心でエリスはつぶやいた。
あのあと、二人は近くのベンチへと移動した。
そして今に至るまでこの女性はりんごを食べ続けていたというわけだ。
「ありがとう！！私の命の恩人さん！！」
「えっ！あ、いや・・・あははは。」
彼女は目を輝かせてエリスに感謝をした。
そこまで喜ばれると、りんごを８つ食べられた事なんてどうでもよくなる。
エリスは満面の笑顔で返事を返した。
エリスはそれよりもすごく気になっている事があった。
そう、この女性についてだ。
エリスにとってこの女性は初対面だ。
エリスはこの女性の名前を知っているわけでもなく、彼女もまたエリスのことを知らない。
しかし、どこかで会ったような気がしてならなかった。
そしてひしひしと感じられる違和感。エリスは思い切って聞いてみる事にした。
「・・・・・あ」
「あああぁーーーー！！！！」
エリスが話しかけたその瞬間に女性は突然叫びだし、ベンチから立ち上がる。
なぜか頭を何度も触る。
「あ、あのぉ・・・」
「帽子・・・・・。」
「えっ？」
「帽子無くしちゃった・・・・・・・まぁ、そのうち帰ってくるか。」
帽子が帰ってくるって・・・・・・？？
エリスは首をかしげて彼女の独り言を聞いていた。
「・・・・・そのペンダント。」
「あ、これのこと？？」
いつのまにか話が変わったのか。彼女はエリスの胸元で鈍く光る石を見ていた。
「・・・・・・・・くもってるのね。」
「私が拾ったときからずっとですよ。」
ふーんっと女性は言うと、エリスにむかってにこっと微笑む。
「・・・・・・・・・あの・・・もし嫌じゃなかったら貸してくれる？？」
「・・・・・えっ！！」
「・・・・おまじないをかけるだけよ。」
エリスは躊躇していたが、首からはずすとその女性に石を渡した。
彼女は受け取ると、その石に向かってなにやらワケのわからない呪文を唱える。
すると石はやがて光を宿り、また消えた。
「・・・・・・うん。きれいになった。」
「・・・・・・あっ。」
曇っていた石は鮮やかなエメラルドに光る宝石のような石になっていた。
もちろん石の向こうが見えるくらいの透明度。
エリスは空いた口が塞がらないくらい驚いている。
「・・・・・・・さっきのお礼よ。きっとそれがあなたたちの身を守ってくれる。」
「ありがとうございます。」
エリスは石を受け取ると、すぐに首から提げた。
・・・・・・・・・あなたたち？？
聞き間違いか？っとエリスが首をかしげたとき、その女性は後ろを向いたまましゃべりだした。
「私の知り合いを『鏡の泉』に呼んどいたわ。
あの『鏡の泉』は特殊な魔法を使わないと効果を発揮しないの。」
女性は来るっとエリスの方を見て微笑む。
この女性はどうやらこれからのエリスたちの行動を知っているようだ。
「な、なぜそれを？？」
「・・・・・ごめんね。私・・・人の心とか読めちゃうのよ。」
「・・・・・・・・・・。」
「警戒しないで。私はあなたの力になりたいだけだから。」
にっこりと笑いかける笑みは優しかったが、その笑みで疑いが晴れるわけでもなく。
エリスは不安そうな顔で彼女をじっと見ていた。
「・・・・・・・・・急いで。間に合わなくなる前に。」
彼女は謎の言葉を残すと、前へと歩き始めた。
「待ってください。」
エリスは去ろうとする女性の足を言葉で止める。
意を決したエリスは思い切って彼女に聞いた。
「・・・・さっきから気になってました。すごく・・・・。
私・・・・あなたにどこかであった事があるような気がするんです。」
「・・・・・・？」
彼女は不思議そうな顔をすると考え出した。
エリスとその女性の間にできた空白は、エリスにとって妙な緊張感を作り出す。
彼女が考えている間、エリスはドクドクとなる心臓の声を聞いていた。
「・・・・・それは、気のせいだと思うわ。だって、初対面だし。」
「・・・・でもっ！！」
「え〜〜りすたぁ〜〜ん！！！」
二人の会話を割って遠くの方から声が聞こえてきた。
視線は自然と声の方へと向く。
目の先には、かわいらしい三角帽子をかぶったテラが走ってくるのが見えた。
やっとのこさテラはエリスたちのところに着いてふぅっと息を吐いた。
「はぁ・・・はぁ・・・もう！探したタトゥよ！！どこに行ってたタトゥか！！」
「私も散々テラを探したよ！！もう！あれだけ離れないでって言ったのに。」
「・・・・・・・・・・あぁああっっ！！！」
「！？」
言い合いになってきたテラとエリスの間にいきなり声が入る。
言うまでもなく。発言者はこの女性。
「な、何タトゥか？！」
「その帽子・・・・探していたの。返してくれないかしら？？」
彼女はテラに歩み寄った。
テラは「そうだったタトゥか！よかったタトゥ〜！！」っと言うと素直に彼女に渡した。
っと、そのとき。テラはいきなり黙りこんだ。
「・・・・・ありがとう。」
「・・・・・・・・・・・・・・。」
「どうしたの？テラ。いきなり黙りこんで。」
「え、・・・いや・・・この人・・・まさか・・・・。」
テラはその女性に震えている指を指して後ずさる。
砂はテラが動くたびにじりじりと音を出した。
女性はテラから帽子を受け取ると、ふわっと宙に浮かせた。
手首にかけていたゴムで器用に髪を一つにまとめ始める。
そして・・・・帽子をかぶった瞬間。エリスとテラに電撃が走った。
「で、出たあああああああぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜！！！！」
テラはそう言うと、エリスの後ろに隠れてガタガタと震えだした。
エリスも驚きを隠せないのか・・・・固まったまま動こうとしない。
そう。その姿は先日あの薄暗い趣味の悪い森に住む一人の女性 ― のろいそのものだった。
「・・・・・・・？あ、じゃあ私・・・急ぐから。
気をつけてね。なんか近くに悪魔が来てるみたいだし。」
彼女はそう言い残すと、急いでこの場を後にしてしまった。
エリスは後になってから気づいた。
のろいが言ったあの言葉を。
― ・・・・・・・・・・クラノス・マレナーク ―
・・・・・ク、クラノス・・・・？？
あ、あの〜。それって、誰なんですか？？
・・・・・世界最強のタイムサモナーよ。 ―
「ま、まさか・・・・・。」
「エリスたん！！なんか外暗くなってきたタトゥよ。」
エリスはその声で我に帰った。テラの言うとおり、あたりは暗くなっていく。
「もしかして・・・・」
「うん。悪魔が来たよ。テラ！！レオンさんとリウさんを呼んで！！私は町の外に出るから！！」
「わかったタトゥ！！」
そう言うと、二人は二手に分かれ行動を開始した。