「ちょ、ちょぉーっと待つタトゥ!!」
テラは大きな声でその女性― チェインに言う。
「なによ。」
「・・・・・・・・・なんでもありません。」
ギラリと睨むチェインの目に耐え切れず、テラはすぐに折れてしまった。
テラはくるっと後ろを向いてレオンとリウの三人で小さな輪を作って作戦会議。
「だって、おかしいタトゥよ!!いきなりエリスたんが消えたと思ったら、大量の悪魔が出現して、それが死んだと思ったら今度は、チェインっていう人が出てきて!!あげくの果てに「グラティス」タトゥよ?!」
「グラティス・・・・・エリスもたしかグラティスだったよなぁ〜。」
「でも、エリス・グラティスじゃないわ。あきらかに顔が違うじゃない。」
「声も服さえも違うタトゥ。」
「ちょっと、なに作戦会議してんのよ。」
三人が順順に話しているところに、チェインの声が入ったことでようやく会議が終了した。
どうも謎が多い彼女に質問を投げつけたのはやっぱりテラだった。
「えっと・・・・チェインたんはいったいここで何してるタトゥか??」
「何って・・・・・・・さぁ?」
思いもよらぬ答えに3人はあっけに取られる。
「おぃおぃ!じゃあ、お前どっから来たんだよ!!」
「そんなの知らないわよ!!」
その言葉にふざけているようすはない。
彼女はまっすぐにレオンたちを見ていた。
その睨んでいた目をふっと閉じるとため息をついた。
「・・・・・・・私は・・ただ・・・・」
そこで言葉がとまる。
その続きを待つかのように3人はまじまじとチェインを見るが・・・・・。
答えない。
「どうしたんだよ・・・おい。」
「・・・・・・す、鈴・・・・が・・・・」
「鈴ぅ〜??んなもん聞こえねぇよ??」
「うっ・・・うそ・・・・・!!!」
チェインはフラッとよろめきその場へしゃがみこんでしまった。
レオンは急いで彼女の元に駆け寄る。
テラとリウはなにもできず、チェインの顔をじっと見ることしかできなかった。
「大丈夫か?!おい!!」
「・・・・・・・い・・・・・・やっ・・・・ぁぁ・・・・・!!」
チェインは声を出そうとするが、やがてカクンと意識を失ってしまった。
すると、チェインの体から光が放たれる。レオンたちはその眩しさに目をつぶった。
目が開かれたのは光が消えた後だった。
「・・・・・・・い、今のはいったい・・・・・・・・・・・・・?!?!!!??!」
レオンが持っている彼女を見た瞬間、心臓が飛び出るほど驚いた。
さっきまで腕の中にいたのは確かに紫色の髪をした女だった。
だが、今腕の中で眠っているのは明らかにエリスだったのだ。
エリスはゆっくりと目を開けた。
頭がまだ寝ているのか、エリスはレオンと目を合わせても口を開かなかった。
レオンはその状況に対応できず、ぽかんと口をあけたままエリスを見ている。
「・・・・・・・っ!!きゃわわああぁぁぁっ!!!!!」
ようやく自分の状況を理解したのか。はじめに声をあげたのはエリスの方だった。
エリスはバッとレオンから離れると顔を真っ赤にしてしゃがみこんだ。
「は、う・・・・え、あ、えっと!!」
エリスはどうしようもなく混乱している。近くにいたテラとリウも一体何が起こったのかわからない様子で立っていた。
「あ、あなたが・・・・??」
「・・・・・エリスたん??」
「・・・・・・・え、エリス・・・・だよな??」
リウ、テラ、レオンの順にエリスに聞く。
エリスは真っ赤な顔を両手で覆い隠しながらも、こくんとうなづいた。
「・・・・・・・・・・わっかんねええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」
レオンの声が広い空に一気に響き渡り、そして、消えていった。
「それで、なんかいきなり鈴の音が聞こえたんです。なんだろうって思っているうちに足が動き出しちゃって・・・・・。」
多少焦りながら説明をするエリスの様子を見ながら、レオンたちは耳を傾けていた。
場所は移って町の中。とある喫茶店だ。
なんだか話を聞くことによって謎は深まるばかりだ。はっきり言って疲れてくると言ってもいいだろう。
「レオンさんが叫んだときにやめないとって思ったんですが、もう石に触れていて・・・・・そこからなんにも覚えていません。」
「・・・・・・ん〜。気になる点が3つほどあるんだが・・・・。」
「あ、タトゥも!!」
「私も。」
レオンに引き続いてリウとテラも口を開ける。
「石に触ってから、さっきまでぜんぜん意識や覚えがないんだよな??」
「はい。」
レオンの問いに冷静にエリスは答えた。
リウは飲んでいた紅茶をテーブルに置くとエリスのほうをまっすぐ見つめた。
「っで、さっきの話にも出てきた石っていうのは今どこにあるの??」
「そうなんですよ。その石はですね・・・・・。」
ゴソゴソとポケットの中から少しくすみがかかった緑色の石を取り出す。
そして、それをテーブルの上へと置いた。
「なぜかポケットの中に入っていたんですよ。」
「あぁ、また謎が深まった・・・・・。」
ため息を吐くかのようにレオンは言い捨てた。
「・・・・・・くすみがかかってる。」
リウが石を持って光に透かしてみるものの、それほど「きれい!」っと言えるものではない。
「あぁ、それは私が初めて手にした時からでしたよ!拭いても拭いても無駄でしたけどね。」
リウはエリスの答えに目で答えた。そして、石をテーブルの上に戻した。
「エリス、『チェイン』っていう女の人、知り合いにいないタトゥか??」
テラが問う。
「チェイン??・・・・・知りませんね〜。誰なんですか??その人。」
そのエリスの問いにテラが答えようとした瞬間、ぐいっとレオンはテラを引っ張った。
「チェインのことは誰にも言うな。もちろん、エリスにもだ。いいな。」
低い声が耳の中で小さく響く。テラはこくんとうなずいた。
エリスは首を傾げて二人の様子を見ている。
「あと・・・・・二人の共通点。」
リウが紅茶を飲みほし、テーブルに置くとガッとイスを引いて立ち上がった。
「・・・・・・・・鈴の音。」
その言葉にレオンとテラは反応する。
それもそのとおり。
エリスもチェインも聞いている。あの謎の鈴の音を。
そのことが何を示しているのかはわからない。
だが、二人が聞いていることには変わりはないのだ。
「あ、そだ。エリス・グラティス。」
「エリスでいいよ。」
沈黙をかき分けて言うリウの言葉にエリスが返す。
リウはいつになく変わらない真剣な目でまっすぐにエリスを見つめた。
「・・・・・・・・・私はあなたを護衛しなければならないの。だから、ついていくわ。」
「・・・・・でも、この石になにがあるんだ??」
レオンはリウに聞くと、リウは少し考えている様子でいた。
口を開けたときは申し訳なさそうな表情をしていた。
「・・・・・・・・・それは、極秘任務だから・・・ここでは言えない。でも、時期必ずあなたたちに話すわ。義務だからね。」
「・・・・・・・・そうか。」
レオンは腕を組んで言葉を流した。
そこでうなり声を上げながら顔を上げたのがエリス。
「え・・・・・うぅ〜・・・・・どうしても・・・ついてくるんですか??」
エリスは口を濁らせながら、リウに聞く。
「えぇ。任務ですから。」
リウは間も空けず、こくっとうなずいた。
「・・・・・・・・・わかりました。」
「じゃあ、俺もそうしよっかな!」
「・・はい・・・・・・って、ええぇぇ?!」
エリスはレオンを見ると、彼は「♪」っと楽しそうにエリスを見ていた。
「でででで、でも!!ごご、ご迷惑を!!」
「嫌か??」
エリスにぐっと顔を近づけて目を細める。
エリスは押しに弱い。自分でもよくわかっている。
でも、これ以上巻き込むことは許されない。
その思いとは反対に、顔を赤めて首をかすかに左右に振った。
「んじゃ!決まりだな。」
「そそそそ、そんなあぁ!!!」
「嫌じゃねえっつっただろ?」
二マッと悪戯たっぷりの笑みを見せる。
エリスはその笑みにたじたじになる。
「・・・ふぇ。」
小さく泣き言を言って、エリスは肩を落とした。
新しい仲間が増えたところで、また新たな一歩を踏み出した。
またエリスたちに新たな、そして最強な仲間に出会えるなんて・・・・思いもよらずに。