クロもロウもお互い精神的に限界がきていた。
相手は青いトカゲ(一応、ドラゴン)のテラ。
二対一という、数や戦力的には断然クロたちの方が有利だった。
しかし・・・テラの方には強敵がいた。
「・・・ロウちゃんカモオオオオォォォォン!!」
「いゃああぁぁぁーーーーー!!!」
のろいの猛烈なお誘いを叫び声で断るロウ。
クロも彼女の声を聞く度に、体をびくっと大きく揺らして恐れていた。
うざい、うるさい、うっとおしいのトリプルUが当てはまる彼女―--- のろい。
彼女の存在はこの二人の兄弟にとって、とても大きなものとなっていた。
もちろん悪い意味で。
「くっ。こーなったら・・・あれを使うしかないな」
「あ、あれって・・・まさか。でも」
「あれってなによ?」
「く、口を挟むな!!」
クロがのろいの質問に間髪入れずに切る。
さっきからの会話もずっとこの調子だ。
だが、この二人は強い。こんな風なやり取りを見せるが、何を出してくるかわからない。
テラは真剣な目つきで彼らを見ていた。
「行くぞ!!」
クロがそう切り出すと、強い魔力が放出される。
その力はやがて闇へと変わり、黒い煙りがテラと二人の兄弟を囲む。
のろいは何度も「・・・私は?私は?」っとかほざいていたが、すでに射程外だ。
やがて、周りには一つの空間が存在していた。
外の姿や音・・・・もちろん、声もまったく見えず聞こえず。
「こ、これは一体?!」
「一時的に空間を作ったんだ。もうお前はここから逃げられねぇぜ。」
「あなたはこの空間から出る事はできません。もちろん、仲間にも声すら届かないでしょう。」
クロはコブシを掌にパンっと押し付ける。
しかしそんな状況にもかかわらず、動じないテラは相変わらずの不抜けた顔をしていた。
・・・・・タトゥは一度も逃げてないタトゥよ。ただ単に、のろいたんの声がうっとおしかっただけじゃないタトゥか??
っと、心の中でつぶやいてはいるが。
「タイムリミットは俺らの魔力が尽きるまで。お前を殺すには十分すぎるくらいだな。」
「ん〜、一つ聞いていいタトゥか?」
テラは首をかしげ、クロに言う。
クロは顔をしかめたが、テラからの質問を黙って待っていた。
「空間作ったとしても、タトゥがこの空間内でブレスを吐きまくったら、自分たちも燃えてしまうタトゥよ??」
それに〜っとテラは続ける。
「酸素不足にもなっちゃうタトゥよ??」
「・・・・ハッハッハッハ!!これから死のうとしているトカゲが酸素のことを心配していたか。」
こいつはばかだっとでも言うように、クロは笑う。
テラはぷくっと頬を膨らます。
「ご心配なく。お前のブレスごとき、俺らの魔法で防げる。それに・・・・」
クロは黒い壁に手を突っ込む。
すると、壁の中に手がスッと入った。
「た、タヒョ?!」
「俺らなら問題なくこの空間から出れるわけ。だから、酸素がなくなって苦しむのもやっぱりお前なんだよ。」
そう言うと、クロは杖を持ってテラに近づいてきた。
テラはぐっと相手の動きを見極め、爪を出す。
クロは何種類のものの魔方陣を一列にバッと出す。
その光景にテラは動きも息も止まる。
「た、タヒョタヒョ。」
「避けてみな。」
魔方陣は次々に光を宿る。
そこから火、水、雷など様々な属性の魔法が飛び交い、テラにいくつかが当たる。
が、テラも負けてはおらず。ブレスで立ち向かった。
やがて、力は互いに相殺する。
とは言えども、テラはダメージを受けていた。
それも、相当な。
「た、タヒョ・・・・」
「まだやるか?」
「こんなの・・・レオンたんのパンチに比べたらなんともないタトゥよ。」
とは言いつつも、足元がふらつくテラ。
テラはクロに向かって、まっすぐに人差し指をつきつけた。
そして、ニヤッと誇らしげに笑った。
「この勝負はどちらにしてもタトゥの勝ちタトゥ。」
自信あり気のこの言葉。
クロはしばらくポカーンとしていたが、苛立ちがこみ上げるとたちまち表情は険しくなる。
あれだけのダメージを受けて何を言うか。
クロは杖をぐっと強くにぎりしめた。
「いいぜ。やってみろよ!!この魔法に避けられたらなっ!!」
クロが魔法を唱えだすと同時に、今まで動きを出さなかったロウも一緒に唱えだす。
どうやら連携魔法のようだ。
こんなのくらったらひとたまりないっとテラはまたもや冷や汗をかいた。
「た、タヒョ?!な、なにタトゥか?そのでっかぁーい黒い玉は・・・・」
クロとロウの上にはいつのまには黒い玉があった。
このサイズでも十分なのにさらにどんどん大きくなっていく。
「これは、お前を殺す最大の呪文だな。」
「これに避けられるものはかつて一人もいませんでしたよ。」
ロウはにっこりとテラに向かって笑った。
テラもあははっと力なく笑う。
「闇よ・・・全てを消せっ!!」
その言葉と同時に、テラへと放たれる黒い玉。
テラは大きく目を見開いてそれを見つめていた。
もう・・・・・・・ダメタトゥか?
タトゥは・・・・やっぱり弱いタトゥか??
オマエナンカ ヨワイ ンダヨ
ダレガ ナカマ ニ イレテヤルカ
オマエナンカ ドラゴン ジャナイ
キエ ウセロ
大きな音ともに、テラは闇の中へと消えた。
「・・・・・・っ?!」
「・・・・どうしたの??」
いきなり体をびくつかせたエリスにチェインは問いかける。
エリスは首を左右に振って「なんでもないよ」っと答えた。
「・・・・・・外の連中・・・置いて来たのよね?大丈夫かしら??」
チェインは目をしかめ、うーんと唸る。
エリスはにっこりと笑った。
「・・・・・・きっと大丈夫だよ。」
テラ・・・・・・・・。
「終わったな。」
闇が消えた時、クロはそう確信する。
テラの姿はもうどこにもなかった。
ただ、生々しく地面に大きな穴があいている。
「一匹排除成功だ。さて、次へとうつ」
ボコッ
「にゃああぁぁぁぁ・・・・・!!」
変な音が聞こえた。それと同時に、ロウの情けない声が聞こえ、やがて遠くに消えていった。
「ろ、ロウ?!」
クロが振り返ると、そこには闇に飲まれたはずのテラがいた。
テラはにこにこと笑っている。
「な、なんでっ!!」
「タヒョタヒョ。穴を見なかったタトゥか?」
「あ、穴・・・・・?」
穴と言うのは、もちろん。黒い玉が落ちたあの大きな穴のところだ。
クロはしばらく考え、そして気づく。
「まさか・・・・・」
どうやら、地面を掘って逃げ道を確保したらしい。
土の中まではあの魔法は通らない。
動物だからこそできる唯一の方法。
「タトゥの攻撃はブレスだけじゃないタトゥよ!!」
「ちっ。」
クロは再びテラに向かって魔法を唱えようとするが、テラはニヤリと笑う。
「そんな事してていいんタトゥか??」
「・・・・・・ど、どういうことだ??」
クロは動きを止め、テラを睨む。
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ロウは?
「ああぁぁぁあぁっっ!!」
クロは急いで魔法を使い、空間を歪めた。
壁は黒い煙にもどり消えていった。
今再び、外へと戻ってきたクロの目に映ったものはもちろん・・・・。
「・・・・・・・・ロ・ウ・ちゃんw」
「・・・・・・・・・・・・・」
すでに放心状態(っていうか魂離脱済み)のロウとハートを飛ばしまくっているのろいのツーショット。
クロも放心するしかなかった。
「・・・・・・はっ。ろ、ロウ!!!」
「あら。クロちゃん。ロウちゃんなら大丈夫よ。私が手厚く保護してるから。」
のろいはぐっと親指を立てる。
クロは首を左右に振った。
「ど、どこがだっ!もう魂抜けてるぞっ!!」
「たいしたことじゃないわよ。ちょっとうるさいから薬飲ませただけじゃない。」
その時点で彼はもう重症だ。
「言っておくけど、ヘタな真似をしたら・・・・・」
「・・・・・くっ。」
クロは唇を噛み閉め、下を向いた。
のろいはクスッとテラを見る。
テラは満面の笑みをのろいに見せた。
あのとき・・・・・
もうダメかと思った時。
声が聞こえたような気がした。
ダイジョウブ
テラ ハ ツヨイヨ
シンジテルカラ
「・・・・・・・・・・・・・エリスたんもがんばるタトゥよ。」