小さな町と言われるわりには、広場が思ったよりも広く、たくさんの店やテントが並んでいた。
どの人もとても楽しそうに賑わっている。
テラはキョロキョロと辺りを見回しながら、ほぉっと息を吐いた。

「すごいタトゥ!!いーっぱい人が来てるタトゥ!!」

「まあ、この町は小さいさかいなぁ〜。なかなかサーカスとかはこーへんからめずらしいんやろっ!!」

ツグナはニッと笑ってテラに言う。


ツグナの言うとおり、この町にはめったにこういったイベントが来ることはない。
町の中身に至っては発展しているかもしれないが、やはり面積的に見たらまだ小さい町なのだ。
そのせいあって、ここの町の人にとって「サーカス」はめずらしく感じたのだろう。


「早く行くタトゥよ〜!!もう待ち切れないタトゥ!!」

テラは広場の門をくぐり、中に入って言った。

「こらこら〜、はぐれるでぇ!!・・・・ん?チェインちゃんどうしたん??」
ツグナはチェインが広場の近くに来てから、ずっと黙ってうつむいているのが気になり、声をかける。


「・・・っえ?!・・・なんでもない。ちょっと・・・なんか・・・変な感じがするだけ。」

チェインは首を横に振ると、なんとも言えない難しそうな顔を浮かべる。
気分が優れないのか、少し顔が青く見える。



「ごめん。私、少し休む・・・・」

チェインはそう言うと、光りを放ちエリスの姿に戻った。
その変身っぷりをツグナは目を丸くして見ている。

「さあ、行きましょう!!」

「あ、あぁ!!なんや慣れへんが・・・・まっ、えっか!!」

エリスにつられてツグナは中へと入っていった。


「あ、あっれ〜?テラどこに行ったんだろう??」

「だから、一人で行くなってゆーたのに。」

先に行ったテラを探しながら、人が溢れる広場をぐるぐると回る。
しかし、テラは小さい上にこの人の量だ。簡単に見つかりそうもない。
途方にくれていたその時、後ろから声が聞こえた。




「やあ、久しぶりだね!!」

聞き覚えのある声。
エリスは振り返ると、小さなお店があった。
机の上には水晶とお札。そして、イスには少年が座っていた。

「あなたは・・・・・たしか・・・」

「うん。トラスだよw久しぶりだね!!」


以前(第一章10話『占い日和』より)、道で会った占い師の少年・・・・トラス。
彼の占いは結構当たる。前回もそれで驚かされた。

「あ、でもなんでここに?」

「あー、そりゃもちろん。」

トラスはにっこりと笑う。ガタンと言わして、イスから立つ。


「お金稼ぎに決まっているじゃないかぁ〜〜〜!!w
だって、こんなにも人がいっぱいいるんだよ?!サーカスだしね!!これは稼ぎ時ときたもんだよ!
まさに、人の集まるところにトラス有りって感じだねっ!!
こんな機会はめったにないから、こーいったイベントは働く人にとって非常においしいことこの上ないね!!さらに」


永遠と語りだすトラス。エリスは興味津々のようだが、ツグナはまったく興味がないようだ。
そのツグナの状況に気づいたエリスはあわてて話題をきり変える。

「あ、あぁあの!この近くでテラ見かけませんでした??」

「・・・・テラ?・・・・・・・・あぁ、トカゲ君ね!」

ポンっと手の上に拳を乗せて、うなずく。


「たしか・・・・さっきテントの中に入って行ったよ。それまで、僕と少ししゃべっていたからね!」

「あ、そうなんですか!ありがとうございます!!」

エリスはトラスにお辞儀をして、ツグナとテントの方へ向かう。

「エリスさん!!」

トラスはエリスに向かって何かを投げる。エリスはそれをうまくキャッチした。
受け取ったのは小さな紅いお守り。

「それ、あげる!!運気向上するから!!!」

そう言って、トラスは手を大きく振った。
エリスもそれに連れ手を振る。


「また今度ねぇー!!」

「はい!また今度ー!!ありがとうございましたー!!」

エリスとツグナはテントの中に入った。


テントの中もやはり人で溢れていた。
がやがやといろんな人の声が聞こえる。
席も満席でどうやら立って見ないといけないようだ。

それにしても・・・・・・

「い、いないですね。」

「そやな。どこいったんやろ??」

あくまでも、ざっと目を通したまでだが、テラの姿はない。
彼の体がちっちゃいせいか。それとも、ここには彼は存在しないのか。
いずれにせよ、判断しにくいと言ったところだ。

「ん〜。困りましたね。」

「せやなぁ〜。もうちょいじっくり見てみよか。」


ガシャン


音と同時に、テント内の明かりが一斉に消える。
すると、人々も先ほどとは違ったざわつきを見せる。

「な、なんでしょうか?!」

「いや・・・・たぶん事故とちゃうで。これから始まるんや。」

ツグナは真ん中のステージに目をやると、エリスもつられてそちらに目を移す。
すると、ステージのみにライトがあたり、おもしろおかしい衣装や化粧、小道具を身につけた人や動物が次々と姿を現した。
それぞれ、なにか芸を見せながら行進を進める。

「わあぁ!!すっごいぃ!!w」

「お、エリスちゃんも初めてか?」

「はぃっ!!こんなの見るの初めてですっ!!あ、あの人すごいっ!!」

「ははは!!あれは、ピエロっていうんやで。」

エリスははしゃぎながら、目を輝かせて子供のようにサーカスを見入る。
ツグナはそんなエリスの横顔を見て、クスクスと笑っていた。


それからしばらく、二人はサーカスを観賞していた。
サーカスについて全てが初めてなエリスは本当に食いつくようにじっと見ていた。

サーカスも中盤に入るころ、ツグナはそんなエリスに言った。


「なぁ、もうそろそろ探しにいかへん??」

「っえ・・・・・・あぁっっ!!うぅ〜。はい。」

エリスはツグナのその言葉を聴いてかなり動揺している様子。
ツグナは彼女の反応を見ながら、これはおもしろいのではないかっと考えたのか。
ニヤーッと笑う。

「・・・・まさか忘れとったとか?」

「ぅえっ!?そ、そそそぉんなことはないですよ!!ちょ、ちょっとした息抜きっっ!!
これでも、まわりはちゃんと見てましたよ!!」

「ホンマに〜?・・・の割には、えらいはしゃいどったけど??」

「っう・・・・・・・」

言葉に詰まるエリス。
この動揺っぷりから見て、本当はどうだったかなんていうのは言うまでもないわけで。

ツグナは「かわいいっ」と言い、エリスに顔を近づけ髪をなでた。
エリスは顔を赤らめて今にも泣きだしそうな表情をだったが、ぷいっとそっぽ向くとツグナから離れて歩き出した。


「・・・は、早く。探しましょう。」

「はぃはい♪」





『えぇー、続きましてはぁ〜。不思議な動物をお見せしましょう!』



太鼓の音とともにナレーションが入る。エリスとツグナの目は自然とステージに向いた。

「不思議な動物??」

「・・・・・・なんやろなぁ?」

カシャっとライトがステージの一点に集中する。
いっそう太鼓の音が強くなったと思えば、一匹の生物が姿を現した。


「あっ!!」

「なぁっ!!!」


そこには、水色の小さなドラゴン。テラの姿があったのだ。













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